『AI VS. 教科書が読めない子どもたち』 新井紀子 著
「東ロボくん」という、人工知能が東大合格を目指すプロジェクトは聞いたことがありました。
そのプロジェクトの発起人の方が本書を書いています。
AIの仕組み解説もありますが、「教育への警鐘本」でした。
本書の内容を4行でまとめると
本書の内容を簡単にまとめると…
- AI(人工知能)は過大評価されていて、シンギュラリティなど起こらない
- しかし、小中・高校生の読解力は低く、半数が教科書を理解できない
- 読解力は人間がAIに勝てる部分だが、そのレベルが低い人間はAIに代替される
- AIに代替されない能力を持つ教育が必要だ
以下、もう少し中身を具体的に述べます。
本書では、人工知能の現状を冷静に述べています。
人工知能、ディープラーニング、ビッグデータ…等々、ITの進歩によって、新たな分野に大きな期待がかかっています。
一方で、これら技術が発展するにつれ「シンギュラリティ(人工知能が人間を超える)」ことが危惧されています。
つまり、人工知能が「自分より少しでも優秀な人工知能を生み出せるようになったら、その進化は加速度的で、留まることがない」というものです。
しかし、筆者はこれをばっさりと否定しています。
将棋や囲碁の世界などの「ルールが限定された閉じた世界」では、既にAIがプロ棋士らを凌駕しています。
しかし、現実は無意識的にも人間は多くの知識・経験による判断を下しています。
特に「常識」や「感情」、「感覚」というのは、機械的に再現できても理解させることは現状無理なようです。
「人間の常識」の壁(例題あり)
■英単語を並び替えて、意味の通る文章を作る問題です。
A「Did you walk to Mary's house in this hot weather?」
(こんな暑いのに、マリーの家まで歩いたのか?)
B「Yes. I was very thirsty when I arrived. So ____ 」
(そうさ、着いたときには喉が渇いていた。__)
⇒下線部に当てはまる文章を、①~⑥を並び替えて作りなさい。
①asked ②cold ③for ④I ⑤something ⑥to
人間なら、直前に「暑い」と言っているので、
「So I asked for something cold to drink(だから何か冷たいものを頼んだのさ!HAHAHA)」と答えられます。
が、人工知能の場合は「暑い」が本質的に理解できていないので、
「So cold, I asked for something to drink(寒いので、私は飲み物を頼んだ)」とも答えます。
つまり、常識的に「暑いと言っているのに、すぐに寒いと言うのはおかしい」ということは判断できず、文法的には正しいという理由だけで判断しているということです。
将棋のAIと人間(プロ)の戦いで、「歩・成らず」の一手によってAIが理解不能に陥り、「バグった」結果、人間が勝ったと聞いたことがあります。
「常識」による判断力は、人間がAIに勝てる一つの重要な要素のようです。
一方、子ども達の読解力は…
しかし、大半の子ども達(中高生)の読解力のレベルでは、「AIに勝てるから大丈夫と言えない」というのが筆者の意見です。
AIが苦手な項目として、
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- 同義文(言い回しの違う文章の意味が同じかどうか判断)
例題:以下の文章は同じ意味か、異なるか。
・源義経は、平氏を壇ノ浦の戦いでほろぼした。
・平氏は、源義経に追い詰められ、壇ノ浦の戦いでほろぼされた。
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- 推論(「常識」等により、文章の正否を推測する)
例題:エベレストは世界一高い山である。
このとき、「エルブレス山はエベレスト山より低い」は、
①正しい ②間違い ③判断できない のどれか?
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- イメージ同定(文章と画像を結びつける)
例題:四角形の中に塗りつぶされた丸があるものを全て選べ。
(正解は上の2つです)
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- 具体例同定(定義に合う具体例を選ぶ)
例題:2で割り切れる整数を偶数、割り切れない整数を奇数という。
以下のうち、偶数はどれか。
①88 ②31 ③4 ④0 ⑤299
(正解は①③④)
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こうした問題は、AIにはほとんど解けないようです。
ただ、筆者が開発・実施した中高生向けのテストでは、中高生の正答率も半数以下。
もちろんいわゆる「偏差値の高い学校」の生徒はもっと正答率は高いですが、これは思ったより酷い。
つまり、AIの得意分野と子どもたちのできることがほぼ同じであるため、AIに代替される可能性が高いと警鐘を鳴らしています。
解決方法の明示はない
しかし、本書の段階では具体的な解決策は明示されておりません。
筆者の調査では、「読書習慣」と「読解力」に正の相関はなく、
「スマホをいじる時間」と「読解力」にも負の相関はない。
何をもって読解力が鍛えられているのかが、まだ因果がわからないとのこと。
読解力不足にはSNSの短文・画像化が影響あるのでは?
個人的に、若者の読解力不足の影響について思うこと。
スマホの時間等は別として、現在の「短文推奨、画像推奨」文化に一因があると思います。
最たるものは短文投稿の「Twitter」、さらに画像で語る「Instagram」など。
画像や動画による情報が氾濫し過ぎた状況では、読解力も身に付かないのでは?
もう一つは、最近は何でも丁寧に説明し過ぎてるような気がします。
例えばロールプレイングゲーム。
(昔のゲームに比べて情報量が増えていることもありますが、)
今のゲームは、町の人に話を聞いて目的を確認したあとに、
MAP上に『ここに行ってこれをしろ!』と表示されていますよね。
なので、理解せずともとりあえず行けばいい、やればいいということが分かります。
こういうことも、小さいことですが影響あるんじゃないかなと思います。
ただ、昔の人達が今の子どもたちに比べて読解力が高いかと言うと、それは分かりませんけどね。
読解力を鍛えよう!
筆者には相関関係を否定された「読書習慣」と「読解力」ですが、
それでもあるとないとでは、多少の違いはあることでしょう。あると信じたい。
AIに代替されても、勝手に収入が入って生活が楽になるのならいいのですが、
残念ながら、私の生きている間にはそこまでは至らない気がします。
AIに負けない・共存できるように切磋琢磨することが必要なようですので、
まずできることと言えば本を読むこと、いろんな感覚を養うことくらいですかね。
もちろん、それを生かすことが最も重要ですが。
というわけで、いつもより長めの文章にしてみました。
最後まで読んでくださった方は読解力と忍耐力があることでしょう。
ありがとうございました。