「FACT FULNESS」 ハンス・ロスリング(主著)、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド(著)、上杉周作・関美和(訳)
事実は小説よりも奇なりという言葉がありますが、どちらかというと、イメージは事実よりも奇なりという感じの内容です。
世界がどう進んでいるのか、認識を改めるための一冊。
- 「FACTFULNESS」の内容を一言で表すと。
- 本の概要
- 本能はドラマチックに捉えがち
- 感想:個々のデータは役に立つ。
- 楽天的過ぎないか?
- 感覚と感情の問題と、データの使い方について思うこと
- 質問の答え
「FACTFULNESS」の内容を一言で表すと。
副題に全てが込められています。「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」。長い。
世界に関するニュースを見聞きするとき、どういうニュースが多いでしょうか?
良いニュースよりも、領土問題、テロ、難民、貧困問題など悪いニュースの方が多いと感じませんか?
そうした報道や「本能」を通じ、我々は世界を「悪い、悪くなっていく」と感じがちですが、多くの統計・データは「世界が良くなっている」ことを示している、というのがこの本の大きな主張です。
確かに貧困にあえぎ、戦禍におびえ、教育の受けられない地域はありますが、それでも昔よりははるかに改善されており、「悪いところもある」が「確実に良くなっている」の2つの状況が両立しているのが世界の現状です。
というお話。
本の概要
この本は冒頭で、13の質問(全て3択)を提示しています。
13の質問全てを書いてしまうのもよろしくないので、いくつかご紹介。
質問2 世界で最も多くの人が住んでいるのはどこでしょう?
A 低所得国
B 中所得国
C 高所得国
質問3 世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A 約2倍になった
B あまり変わっていない
C 半分になった
質問12 いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいるでしょう?
A 20%
B 50%
C 80%
※答えは一番最後に 。
とりあえず、3問出してみました。世界のジャーナリストや研究者に聞いても、3割未満の正解率がほとんど。
筆者は「チンパンジーが勘で答えても、3択だから正答率は33%。なぜみんな、チンパンジー以下なのか?」と煽り続けます。
本能はドラマチックに捉えがち
先ほども書いたようにニュースを観れば、悪いニュースの方が多いですし、話題になります。
我々は「世界は先進国と後進国(あえて発展途上といわず)に分断されている」といった「分断本能」によって世界を正確に捉えることができていない。
他にも、
- 世界の人口は増加し続ける(直線本能)
- ひとつの数字が全てだと思ってしまう(過大視本能)
- 誰かを攻めれば問題は解決する(犯人捜し本能)
など、10の本能について、それに囚われることなく公正な視点で世界を捉えるように示唆する本となっています。
感想:個々のデータは役に立つ。
私のような自称:悲観論者としては、基本的に世の中は悪い方に考えていた方が良いと考えています。
本書は、「10の本能」についてそれらを抑えるようにと書いてますが、それもケースバイケース。
「10の本能」のような視点を持っておいて、その本能に従った方が良い場合もあれば、囚われていないか客観視するきっかけにもなる。
そんなような気付きを得ました。
個々のデータについては、なるほどなあと少しは役に立ちました。
私もチンパンジーより正解率は低かったですしね。
楽天的過ぎないか?
確かに「良くなっている」と「悪い」は共存するということは、著者の言う通り。
ただどうも、「これまで世界が悲観的に捉えられていた」という主張に対する反論として本書があるせいか、逆に著者は世界を楽天的に捉えすぎていないか?という印象です。
私のような後ろ向きな人間は、「楽観」が行き過ぎるよりは「悲観」が過ぎた方が良いことだと思います。
例えば、本文中から引用&要約すると…
-
極度の貧困で暮らす人は、20年前は人口の29%だった。
-
しかし、今では9%まで改善した。
-
ほとんどの人は飢餓から脱出した!もうすぐ飢餓はなくなる!世界中の人を呼んでパーティしよう!
本当に、「パーティだ」とまで書いてあるんですよね。
まず、20年の間に人口が10億人以上増えているのに、比率で比較して喜んでいていいのか…?
そして今の人口の9%ということは、ざっと70億人の9%で、6億以上の人はいまだ深刻な貧困の中にいます。
それでも貧困が減った、飢餓が減ったと喜んでいいのでしょうか?
ましてやパーティ?
感覚と感情の問題と、データの使い方について思うこと
あるデータをどう捉えるか?
最終的には、感覚と感情の問題ですよね。
我々の身近な例で言えば、交通事故死者数。
先日、池袋で暴走した車に跳ねられ、親子が死亡、その他ケガをされた方も多く出ました。
高齢者による運転操作ミスのニュースが多いせいで、交通事故死者数も増えていると思う方もいるかもしれませんが、現実には減っています。
最も多かった1970年には1万6,765人。
1990年代も1万人を超している年が多いです。
2000年以降は毎年減り続けており、そして2018年の交通事故死者数は3,532人でした。
これは1950年代並みの低水準です。
しかし「近年、交通事故死者数はどんどん減っていて、世の中良くなっている」という人もいれば、「3,532人、1日10人近くも亡くなっているじゃないか」という意見もあり得るでしょう。
というわけで、同じデータから同じ結論が出るとは限りません。
あくまで数字は数字。その捉え方や解釈、そして一番大事な使い方は、データを得る以上に気にしなければなりませんね。
公正な報道は必要ですが、時には危機感を煽るようなことをしないと、「データ上減っているから」では、高齢者の免許返納も進みません。
いずれにせよ、最後は感覚と感情の問題にもなるので、絶対解はないことでしょう。
ただ国際的にも本書は売れているようですし、一読しておくのもいいかもしれません。
本当の概略はここに書いた通りですが、最近、「東洋経済」で特集が組まれたのでそちらで読めばより補完できると思います。
質問の答え
最初の方に書いた、3つの質問の答えは「B、C、C」の順です。
ここまで言えば、「一番悪いのは間違いだな…」と予想できてしまうでしょう。