「ユージニア」 恩田陸 著
私は、名探偵コナンがあまり好きではありません。
連載が始まったころは割と好きで、コミックスも40巻くらいまでは持っていました。
ただ、自分がコナンの年齢を超えた辺りで、コナン(実は新一らしい??)「見た目は子供、頭脳は大人」だけど、「性格が悪い、子供のまま」なことが、何となく嫌になりました。
まあ高校生だから仕方ないですけど。
絶賛映画公開中のコナンを無駄に批判をしたところで、本書は「真実はひとつではない」という考えに基づいています。
ネタバレも含むので注意してください。
あらすじ
北陸のとある町には、古くから町を仕切る名家「青澤家」があった。
その日は、青澤家で誕生会があり、町の多くの人間が、青澤家に集まっていた。
そこで事件は起きた。
黒い野球帽をかぶり、黄色い雨合羽を着た男が届けた飲み物に毒が混入してあり、17人の犠牲者が出た。
近所の住人も7名死亡したが、青澤家で生き残ったのは幼いころに視覚を失った中学生の青澤緋紗子のみ。
事件現場には「ユージニア」と書かれた手紙が残っていた。
事件は迷宮入りしかけていたが、突然終わりを迎えた。
ある青年が、犯行をほのめかす遺書を残して自殺したのだった。
いくつか不可思議な点は残ったが、捜査は終了し、事件は忘れられた。
緋紗子は、目が見えないものの、完璧な人間だった。
容姿端麗、才色兼備、家柄も良く人当たりも良い。
そんな彼女が「悲劇のヒロイン」となり、ますます神秘性を増していた。
しかし、当時近所に住んでいた雑賀満喜子(さいがまきこ)や、捜査を担当した刑事など、事件の関係者は全く別の犯人を確信していた。
生き残った青澤緋紗子が犯人に違いないと…
雑賀満喜子は大学生になると、当時の事件関係者たちにヒアリング調査を行い、事件を題材にした「忘れられた祝祭」という本を書いた。
大量殺人事件を「祝祭」と名付けたことでバッシングもあったが、本は大反響だった。
しかし、事件関係者が読んでみると「少し事実が異なって紛れている」と感じる部分がいくつも散りばめられていた。
それは誰かに向けたメッセージなのだろうか?
皆が事件を語るが、誰が犯人なのか?そして真実はどれなのだろうか?
内容・構成
この本は、全14章構成で、その大半がインタビュー形式で進んでいきます。
1章につき一人が、事件当時に関する記憶と推測、気持ちを語っています。
事件当時現場近くにいた雑賀満喜子、捜査を担当していた引退済の刑事、満喜子の兄・順二の友人…などなど。
漫画で言えば、刃牙シリーズでよくあるパターンですね。
「ええ、あの時の花山薫ですか?そりゃあもう…」とか「こう、バンッてやったんですよ。初めて見ましたね、あんなの」みたいな。
ただ、そればかりではありません。
いきなり新聞記事が始まったり、誰かの発言ではなく客観的文章になったりと、様々な表現が出てきます。書簡形式もありますね。
多種多様な視点や立場で事件を見ているので、それぞれ細部が異なったり、違う側面が見えてきたりします。
感想:文章としては正直読みづらい
上に書いたように、かなり自由な構成のせいもあってか、全体的に読みづらいです。
まず主語が分かりづらい上に、彼や彼女などの三人称表現が多いですし、話の時系列もあやふや。
そもそも、インタビュー形式なのは、誰に話しているのだろうか?
そして、章に依りますが、会話しているのにカギカッコがないせいで、誰がどこを話しているのかも分かりづらい。
わざとそういう表現や造りにしているのでしょうが、単純な読みにくさが上回ったように思いました。
それでも、最後にカタルシスがあれば良かったのですが…
すみません、カタルシスって言ってみたかっただけです。
それでも、最後にスッキリする話なら良かったのですが…
オチが納得できない…(ネタバレ注意)
ここからはネタバレがありますよ。むしろ、読んだ前提でのお話です。
途中までのもやもや感は楽しかったのですが、それが晴れることがありませんでした。
読んだまま解釈すると、緋紗子が青年を上手く操って毒を運ばせたのでしょう。
目の見えない緋紗子は、一人になりたかった。そのためには家族が邪魔だった。
しかし、緋紗子の思い出に残る「青い部屋と白い百日紅(さるすべり)」のフラグは、最後にあっさり「勘違い」で説明されていました。
これまで青い部屋って他に出てきていなかったし、白い百日紅も、本物の百日紅として描写されていて疑う余地がなかったように思います。
それが最後になって、「青い部屋は母の祈祷部屋、白い百日紅は記憶違いしていただけで百合」と言われて、急に緋紗子の母に焦点が当たります。
緋紗子の母は、結局何を望んだのでしょうか?
そして緋紗子に何を懺悔させたのか?
緋紗子の望みは「一人になりたかった」ですが、母親の願いは「視力の回復」ではなかったのですかね。その先にある「娘の幸福」だったのかもしれません。
つまり、緋紗子の「一人になりたい」を叶えるために、皆殺しにした。
しかし、犯人とされた青年が「花の声」と言っていたのは緋紗子の声で確定していますし、あまり母親が事件に関与したとは考えにくい。
上に書いたように「緋紗子が青年を操って事件を起こさせた」だけならそれなりにスッキリ終わりましたが、緋紗子が百日紅を勘違いしていたことや、母親の祈祷室での出来事をトラウマのように記憶していたことが、果たして事件とどうつながるでしょうか?
うーん、結局最後までスッキリしない作品でした。
完全解決しない作品が全て悪いわけではありませんが、この作品は腑に落ちる終わり方をしてほしかったですね。
読みづらさもあったのに、ふわっとした終わり方をされてしまうと、結局すべてが何だったんだ?となってしまいます。
タイトルの「ユージニア」もそんなに意味ある伏線とも思えませんでしたし。
同じ恩田陸作品の「Q&A」という作品もこんな構成で終わり方でしたね、確か。
20世紀少年にがっかりしたあの頃。
浦沢直樹の「20世紀少年」という漫画があります。
実写映画にもなったので、ご存知の方もいるでしょう。
初めて読んだのは大学生の頃でしたが、最初のうちの展開の面白さと期待度は、それまでの漫画の中でもトップクラスでした。
それが最終的には、「え、こんなんで終わり?」という裏切られたとも言える終わり方でした(まあ後半からグダグダ感がありましたけど)。
参考になったサイト
ここまで書き終えたあと、「他の人はどのように解釈したのか?」が気になったので、検索して拝見いたしました。
勝手にリンク張って恐縮ですが、こちらの方の考察が分かりやすくまとまっておりましたので、紹介させていただきます。
障害者が一人になりたいということ
多くの障害がある方は、生きていくために誰かの補助を必要とします。
言い換えると、一人になりたくても一人になるのが難しい。
ということを、「こんな夜更けにバナナかよ」を読んで初めて気が付きました。
(友達もいないけど)一人が楽だから一人暮らし、ひとり旅をしている私にしてみれば、常時、誰かがそばにいるという生活は想像するに堪えがたい。
ユージニアでも、緋紗子は一人になることを望んでいましたが、実際そうなんだろうなあ。
最後に
もやもや感を楽しみたい方には、オススメできるかもしれません。
私はもう少し読みやすく単純明快な方が好きかなあ。
真実はいつもひとつ!かは分かりませんが、今回は少し残念。