高層ホテルの一階に、約束のレストランがあった。真下に立って見上げると、その堂々たる佇まいに少し圧倒される。少し早めに到着したが、問題ないだろうと中に入る。
落ち着いた照明の灯るフロントで先方の名前を告げると、副支配人を名乗る人物が奥から出てきた。レストランまでご案内しますと、赤い絨毯敷きの廊下をこちらの歩調を背中で確認しつつもきびきびと歩いて行く。ごく自然体での振る舞い、その隙を見せない後ろ姿に感心しながらついていく。
レストランの前の受付係に、
「○○様とのお約束のお客様です」
と副支配人が伝えると、彼女が唾を飲み込んだように見えた。副支配人は私はここで失礼します、と深々とお辞儀をした。若干古びてはいるが、重厚な扉を受付係が開けてくれ、促されるままに店内に入る。ドアくらい自分でと思ったが、ここに来る客には自らドアを開けるような者はいないのだろう。
天井にはシャンデリアがきらめいている。丸いテーブルごとにキャンドルが灯された店内は、数多くの紳士淑女がテーブルを囲んでいた。騒ぐような客はおらず、節度がこの店の不文律のようだ。みな一様に、料理に舌鼓を打ち、酒とこの空間に酔っている。場違いではないかといたたまれない気持ちもあるが、それだけ成長したという自負にもつながる。
外套を預け、別のウエイターに予約席と書かれたテーブルに通される。
「まだ○○さんは来ていないようですね」とウエイターに声を掛けると、
「はい、いつも定刻通りにいらっしゃいます。もし先に到着されたならお酒を勧めておくよう、仰せつかっております」
そのような気遣いまでされていると、かえって頼まないのは非礼となりそうだ。
席につき、落ち着かない心持ちで何度か座り直していると、いつの間にかウエイターの隣に男が立っていた。
「それではソムリエより、本日のアペリティフ(食前酒)についてご紹介させていただきます。こちらは温暖な気候で収穫され……果実の芳醇な香りが…」
「それではスパークリングを」
「かしこまりました」
ソムリエが軽く頭を下げる。
話半分で聞いていなかったが、食前酒といえばスパークリングが無難だろう。
顔を上げたソムリエが、自分の左後方を手で指し示した。
「それではお客様、あちらの券売機で食券をお買い求めください。もちろん、QRコード決済もほとんど使えますよ。用意ができましたら、番号でお呼びしますから」
「えっ、食券なの?」
この話はフィクションです。
が、何が言いたいかというと食券制が楽だなあという話を、久々にちょっと高い店に行って思いました。
いや、雰囲気に合わないのは分かっているんですよ。
ソムリエの鈴木さん(仮)だって、食券の受取なんてしたくないでしょう。
しかし、お高い店に行くと、「なんとかのナントカ風なんとか、なんとかを添えて」みたいなことが書かれていて、ラノベのタイトルかよ的な時がありますし、ワインもさっぱり分からないですし。
あとは、松屋(牛丼の方)で「シュクメルリ鍋」を頼んだ時も思いましたが、言えないんだって。
変換すると「主久米瑠璃」って出るし。
先にお金払うので、高い店でも安心というのはありますね。
ただ、窓口で食券渡すパターンはいいんですが、食券を買って席で待つパターンは、きちんとオーダーが届いたのか不安になるのが難点。
近所のトンカツの方の「松のや」は、「ご飯少な目の場合は注文時に」と書いてあります。
券売機で食券を買い、受け渡し口で「ご飯を…」くらいのタイミングで「食券買ったら席でお待ちください!」「ご飯はセルフでお代わり自由ですから!」と3回ほど聞き入れてもらえなかったので、心が折れました。
ますます何が言いたいのか分からなくなりましたが、高い店でも食券制がいけるんじゃないかと思ってはやっぱり駄目だと思い直し、さらに、真に高いお店に行く機会はないから、どうでもいいやという話でした。
反省点としては、前半部分で「高級感のある店の表現」が実体験が乏しくて思いついていないところですかね。