「その可能性はすでに考えた」 井上真偽 著
真偽と書いて「まぎ」と読むそうです。
推理小説家としては、挑戦的なお名前ですね。
この作品もある意味では挑戦的と言えるかもしれません。
あらすじ・概要
主人公は探偵の上苙丞(うえおろ じょう)。おろって漢字があるんですね。
チャイニーズマフィア(?)のフーリンらに多額の借金を背負う彼だが、推理力は抜群。
なお、借金まみれであまり人に気を使わない推理オタク…的な人物像なので、金田一耕助のようなだらしない風貌を想定していましたが、青髪にオッドアイ・深紅のスーツでというアニメ感満載の風貌だそうです。
借金の取り立てをしに、事務所へフーリンがやってきたとき、事件の依頼人の渡良瀬リゼがやってくる。
彼女が語った依頼内容は「幼い頃、自分は人を殺したかもしれないので調べてほしい」というもの。
彼女は10年以上前に、外界から隔離された山奥の宗教団体が暮らす村で、30人以上が集団自殺した事件の唯一の生き残りだと言う。
彼女の記憶と証言を頼りに、過去の猟奇的事件を紐解いていく。
一風変わったスタイル
タイトルがタイトルなので、ネタバレにはならないと思いますが…
この作品の最大の特徴は「可能性で論じる」ことにあります。
推理バトルのような展開なのですが、探偵の敵となる人物が語るのは、あくまで可能性です。
偶然でも気まぐれでも、そうなる可能性があるならば仮説として成り立つのです。
対する探偵側の勝利条件は、その可能性を潰していくというもの。
悪魔の証明のような論理を求められる不利な戦いですが、「その可能性はすでに考えた」という決め台詞が冴え渡ります。
詭弁とのギリギリ
感覚的な部分ですが、詭弁と取れなくもないかなというところがしばしば。
可能性さえあればいいので、荒唐無稽とも言える推論ですが、その反論には根拠が求められます。
ただ、反論の根拠に十分納得できるかというと、私個人的には「それも可能性の問題じゃないの?」という風に感じることがありました。
そうした細かい違和感は正直ありましたが、続編が出ていることを知り、買ってみようかなと思えるくらいには楽しめました。
何より新しいタイプの推理小説というのがまだあるんだなあと、感心した次第です。
きっと、私が読む可能性は既に考えてはいなかっただろう?という人が出てくるんだろうなあ。
↑もちろん追記したものです。試してくれた方はありがとうございました。