「一次元の挿し木」 松下龍之介 著
感想に少しネタバレを含みます。
あらすじ
主人公の七瀬悠(はるか)は、大学院で遺伝人類学を学ぶ学生。
4年前に失踪した、自分の血のつながらない妹の紫陽(しはる)を探し、その喪失感で薬に頼るようになっていた。
そんなある日、教授から鑑定を頼まれたインドのループクンド湖にある200年前の人骨を調べると、過去に調べた紫陽のDNAと完全に一致した。
妹が死んでいたこと以上に、200年前の人骨と同一人物であることが理解できなかった七瀬悠は、真相を探ろうと調査を始める。
しかし、調査を頼んだ石見崎教授の殺害をはじめ、ループクンド湖の発掘に携わった人物たちが、次々と消息を絶っていく。
感想
最初は考古学とか世界史ものとか、そういったものかと思ったのですが、だいぶ違いました。
ミステリーとしては珍しい、200年前の死体という謎など、展開も斬新だなあと思いました。
科学的なことはよくわかりませんが、それも分かりやすくさらっと書かれています。
ストーリーの展開も良かったです。
どこまでが真実で、更に読者にも情報は少しずつ与えつつ、伏線は大げさにならない程度に張ってあるというか。
謎の出し方とタイミングがいい感じでした。
章というか節が10ページ程度ごとに設けられているので、リズムも良かったですね。
一言でまとめると、全体的に絶妙でした。
少しネタバレ
少しネタバレに触れると…
この作品は運命論を科学的に述べています。
精神的あるいは宗教的な運命論ではなく、DNAのらせんによって運命が決まっているということ。
もちろん体質や病気などはDNAで決まってしまっている部分もあるのでしょうが、あくまで良くも悪くも限界値が決まっているだけなのかなと思います。
人間の身体を作るDNA的には、150年生きるようにはできていません。
人によってはガンになるかもしれませんし、先天的に障害を持ってしまうDNAもあります。
一方で、外的要因も多々あります。
150歳まで生きるようなDNAとその身体を持っていても、車に轢かれれば死にますしね。
まあ運命なんてのはあってもなくても、違う結果を知りえない限りは変わらないというのが持論ですので、あまり深く考えないのがいいんでしょうね。
結婚相手と出会うのが運命の出会いなら、酔っぱらいに絡まれるのも運命の出会いですし。
余談
なお、ループクンド湖はインドに実在する湖。
それはどちらでも良かったのですが、何と遺体(遺骨)が大量に見つかったことも事実だったそうです。
全く聞いたことがありませんでしたが、観光客が人骨を持って帰ってしまうことが問題化しているらしく、現実世界でも何だかなあと思いました。