「Iの悲劇」 米澤穂信 著
米澤さんは読みやすいので、最近よく読んでいます。
あらすじ・概要
「I(アイ)」はIターンのIです。
合併して大きな市域となった、南はかま市。
その一地域である「蓑石」にはかつての集落がなくなり、無人・廃屋だけとなってしまった。
そこに市長が目を付け、移住プロジェクトを実行。
「甦り課」に配属された主人公・万願寺は、仕事をサボりがちな平野課長、まだまだ新人だが愛想のいい観山(かんざん)とともに、蓑石に移住してきた人々のお世話係を務めることになる。
だが、その住民たちは続々と問題を引き起こしていく…
以降は少しネタバレを含みます。
感想
Iの悲劇とありますが、少し喜劇要素もあり、それほど暗い気分にはなりません。
一方で、架空の市である南はかま市ですが、その実態は地方自治体ではあり得る話で、かつ根深い話です。
全6章+終章で約400ページですが、あっさり読むことができます。
ちょっとした事件・トラブルが起き、その解決を万願寺ら甦り課が担当することになるのですが、あり得るなあと思う事件もあれば、それはないわという部分も。
ただ、それも含めて面白かったですね。
私自身、割と地方公務員と仕事をすることも多いので、万願寺の「公務員的思考」はよく理解できますし、リアルだなあと感じました。
大半の公務員は真面目ですし優秀な人も多いんですが、規則と組織がガチガチなせいで、本領発揮できていない人もいます。
一方で、公務員くらいはしっかりしていないといけないと思うので、そのガチガチっぷりを否定してはいけないなあと思います。
(仕事のパートナーとしては、不満を覚えることは多々あるのは事実ですが)
あと、本当に仕事できないなあという人もいますが、それは弊社にもいるのであまり強くは言いません。
仕事できない以上に、民間企業は経済で動いているということが分かってない人というか…
本の帯に「そして誰もいなくなった」というのは書かないでほしかったかな。
移住支援施策
さて、移住支援って最近の自治体はどこでもやってますね。
本書でも万願寺の家族らが指摘しているように、私も常々「移住促進だ」といって税金を使い、せいぜい数世帯が引っ越してきたところで何か意味があるのか?と考えてしまいます。
スマホの「新規ゼロ円!!」⇔「既存客?お前らは長年使わせてやってんだろ」と同じで、新規にだけ優しくするのもイマイチですしね。
例えば「子育て支援策が充実してます」ならいいと思うんですが、「移住してきたら新居購入に100万円補助!」などの「移住者だから支援します」には大反対です。
また、最終的に移住施策って、市町村同士の戦いに過ぎず、本質的な少子化や人口減少の課題解決にならないですしね。
本書に出てくる架空の南はかま市は、雪国が想定されています。
雪国って、除雪だけで数十億円くらい予算もかかるので、かなりの負担。
結局、移住支援よりもコンパクトシティなどを進める方が、経済的には効率的ではあると思います。
橋の向こうに誰も住んでいなければ、橋を直さなくていいわけですし。
もちろん、生きた人間が住んでいるので、シムシティみたいに「この辺の施設と道路を全部潰して、こっちに集約しようぜ」はできないんですけどね。
Iターンって一番難しいと思います。
Uターンは生まれ故郷、Jターンは近くの都市部に移住、なのでまだチャンスはあると思うのですが…
Iターンは本当に一期一会でしょうし、移住する側も選ぶのが難しいです。
私も旅行に行くたびに、西表島や石垣島などに住んでみたいなあとは思いますが、リアルに生活や稼ぐことを考えると、やっぱり無理だろうなあと思いますし…
まあ旅行くらいがちょうどいいんでしょう。