「熱帯」 森見登美彦 著
GO氏、感想を語る。最後まで読んでね。
『2018年11月16日に出版された新作。
たまたま出版日に目にしたので、さっそく当日に買ってみました。
ただ、非常に難しいというか、分かりにくいというのが本音ですので、感想もそのようなふあふあしたものになります。
一応、考察っぽいことも考えていますが、こちらもぺらぺらしたものになりますのでご了承ください。
多少のネタバレは含みます。
あらすじ
森見登美彦は、原稿の締め切り終われる日々を過ごしていた。
ある日、妻と話をするなかで、1987年、森見が学生時代に、佐山尚一という男が書いた「熱帯」という不思議な小説を読んだことを思い出す。
「熱帯」は、南の孤島に記憶喪失の若い男が流れ着くところから始まる。
何も分からぬままその島を歩いていると、そこで佐山尚一という男に出会う。
不可視の群島、創造の魔術を使い一帯を支配する魔王の存在、魔術の秘密を探る学団の存在。
様々な冒険・ファンタジー要素をはらみながら、森見も楽しみに読んでいたが、結局最後まで読み切る前に紛失してしまった。
その後、16年も探し続けているが未だに「熱帯」には出会えずにいる。
ある日、元同僚の誘いで森見は「沈黙読書会」という会合に出席する。
それは、参加者が「謎のある本」を持ち寄り、その謎について語り合うという読書会だった。
沈黙といわれるのは、その謎について「解釈してはいけない」というルールがあるからだ。
そこに参加し、「千一夜物語」について語った森見だったが、ある参加女性が「熱帯」を持っていることに気が付く。
その女性、白石に「熱帯」を見せてほしいと依頼する森見だったが、白石はこの本は読み終えていないという。
さらに彼女は「この本を最後まで読んだ人間はいないのです」という。
「熱帯」をめぐる不思議な話
不思議な話じゃのう、というのが率直な感想です。
ここからは、少しネタバレも含みます。
ころころ変わっていく視点と舞台
まずいきなり、著者である森見登美彦が登場します。舞台は現代の奈良県。
そこで原稿が書けない書けないという、(ノンフィクションっぽい)話が続きます。
しかし、彼も「熱帯」の謎を追っています。
その後は、白石の口から語られる「熱帯を追う話」へと変化します。
当然、人の口から語られるエピソードですので、舞台は過去に戻り、場所も有楽町界隈へと移ります。
更にその後は、同じく熱帯の謎を追う学団にいた池内が遺した「ノート」により語られる話へと変化します。
このように「〇〇がこんな話をしていたんだが…」という前フリから、
どんどん舞台も情景も時代も変わっていくのが本書の特徴です。
なので、今は誰が誰の体験を語っているかを把握しておかないと、迷宮に迷い込むことになります。
最初のわくわく感と、後半の不安感
本書は5章構成。
最初の1~3章は、「熱帯」を追い求める森見、白石、池内の冒険譚です。
「熱帯」を追い求めるが、誰も最後まで読み切った者はおらず、読んだ人によっても記憶があいまい。
- 「熱帯」という本が「集団催眠」を起こす本ではないか説
- 「熱帯」は同じ装丁で複数の出版がなされた説
- そもそも我々(白石・池内など)が「熱帯」という本に取り込まれている説
と、作中でも様々な説が浮上していきます。
分かりにくいことを承知で言えば、「森見登美彦の熱帯」という作品の中で「佐山尚一の熱帯」の謎を探していくという、非常に不思議な世界観を作り出していました。
この辺りのよくわからない不思議さ・奇妙さ・やや不気味さは非常に楽しく、先が気になっておりました。
一度読んでも分からない…けど複数回読めば分かるのか?
考察…と言いたいところですが、よく分からないので、まとまりのない文章を書いていきます。
4章以降は、実際に「佐山尚一の熱帯」を想起させる内容です。
舞台も日本ではなくなります。
記憶を失った若者が、熱帯の孤島に流れ着くというところから始まります。
彼は、佐山尚一という男と出会い、魔王から魔術の秘密を探る手伝いをしていきます。
あらすじと同じ内容ですね。
ここから物語は、不思議を極めていきます。
これまで明かされた「熱帯」のエピソードが、次々と登場します。
魔王の娘は千代、魔王は栄造(千代の父として登場)など、これまでの登場人物とも紐付いていきます。
最終的に、記憶を失った若者=佐山尚一本人だったということで、この「熱帯」は終焉となります。
これまで、若者の目の前に佐山尚一として登場していた「虎に変化できる男」は、
記憶を取り戻した佐山尚一により「熱帯」と名付けられます。
考察らしきもの
ただし、自分で書いていてもよく分からないので、勢いで書いてみます。
全ては森見登美彦が創った「熱帯」という本なのですが、その中に佐山尚一の「熱帯」があります。
その佐山版熱帯は、物語の完成を待ち続けながらも無限に続いて欲しいという、人々の気持ちの繋がりを描いたものだったのでしょうか。
なので、佐山版熱帯を読んでのめりこんだ人は、どんどん物語の先を求めて読み進めていきますが、一方で「こんな面白い話は終わって欲しくない」という気持ちがあり、その願望が現実となって、「最後まで読むことができない本」となったのではないでしょうか。
「ある人がこう言っていた」という話がマトリョーシカのように続いていきますが、
それはあたかも「不可視の群島」のように、これまで世に存在していない物語が、その人の口から語られることによって初めて姿を現します。
「ある人がこう言っていた」という話の展開は、ある意味では無敵の論法です。
それは、あくまで「又聞き」の話になるので、舞台も時代も問わず、荒唐無稽で神出鬼没な物語になっても「その人はそう言っていたから」という理屈で、物語に組み込むことができます。
「佐山尚一の脳内で拡がり続けたそんな考えが熱帯という作品になった」という考えが、著者である森見登美彦氏の脳内で拡がり続けてできあがったのが、森見登美彦版の熱帯=本書と言えるのではないでしょうか。
と、考察っぽくまとめようとしましたが、この作品をきちんと述べるには、さらに丁寧な読み解きが必要です。
正直なところ、第4章以降は私の想像力では情景描写のイメージも難しく、ところどころついていけないなあという部分がありました。』
と、GO氏は、自分の理解力の無さを言い訳のように語るのが精一杯だったが、
『でも、これまで読んだ小説の中でも、1・2を争うほどの「奇妙な体験」ができた本でした』と添えた。
そして、最後に彼はこう言った。
『汝に関わりなきことを語るなかれ。しからずんば、汝は好まざることを聞くならん』と。
いや、本当に難しい本なんですよ。楽しかったといえば楽しかったのですが、付いていけてないと言えば、それもそうでして。
少し間を空けて、また読んでみようかなあ。