「ペンギン・ハイウェイ」 森見登美彦 著
ペンギン・ハイウェイとは、「ペンギンが地上に上がった際にいつも辿る同じルート」を意味するそうです。
2018年8月17日には映画化が決定されており、書店でも平積みされてますね。
本書は、SFやファンタジーに属した「非常にふわふわした話」ですが、
ネタバレと私なりの解釈も書こうと思います。
未読の方は、途中まで読んでいただけると幸いです。
あらすじ
主人公の「ぼく」ことアオヤマ君は、非常に研究熱心な小学4年生。
素晴らしい大人になるために、日々の研究をノートに記載し続けている。
「ぼく」は日本一ノートを書く小学生を自負し、大人にも知識や研究心で負けないと思っている。
ある日、「ぼく」の暮らす街の中に、突如としてペンギンが現れる。
何度も群れで現れる、車に轢かれても平気など、少し通常の生態と異なるペンギン。
街の中は騒然としたものの、なぜペンギンが現れたのか誰も理由が分からない。
「ぼく」は友人のウチダ君と一緒に、ペンギン研究を始めることにした。
その研究の名前は「ペンギン・ハイウェイ」。
「ぼく」が通う歯医者に、ひとりのお姉さんが働いている。
お姉さんと「ぼく」は非常に仲が良く、いつもチェスをしながら、
「ぼく」は研究の話、お姉さんは「海辺の町」の話などをしている。
ペンギンが現れだしたのち、お姉さんは「ぼく」に不思議な現象を見せた。
お姉さんがコーラの缶を空中に投げると、それがペンギンへと変化したのだった。
「私というのも不思議でしょう」
「この謎を解いてごらん。どうだ。君にできるか。」とお姉さんは告げる。
街では、他にも不思議なことが起きていた。
クラスメイトのハシモトさんが、「海」と呼ぶ謎の球体を研究していた。
草原に浮かぶ水の球体のようなもので、大きさが変わったり、表面が尖ったりと様々な変化をしている「海」。
「ぼく」とウチダ君も、海に大変心を惹かれていく。
ペンギン、海、お姉さんなど、様々な研究を進める「ぼく」の物語。
これらの答えは、果たして出るのだろうか?
…あらすじを書くのが難しいですね。
「ぼく」は珍しいタイプの、良いキャラをしている
この小説は「ぼく」の一人称視点で進められていきます。
「ぼく」は一見すると、大人のような考えを持ち常に冷静沈着です。
どんなことでもしっかりと記録をつけ、他人に対しても常に丁寧。
しかし、子どもらしさも隠し切れない。
いじめっ子のスズキ君には、君は重大な病気の可能性があると嘘をついて恐怖させ、きちんと仕返しをする。
おっぱいが好きだが、なぜ好きか分からない。
(これは大人になっても分からないかもしれませんけど)
ハシモトさんが、「ぼく」がお姉さんに惹かれていることに嫉妬していても全く気持ちが分からない。
大人な面と子どもな面を持ちつつ、嫌みがない。
小説の主人公にしては、珍しいタイプだなと思います。
※ここからネタバレを含みます
ストーリーについて(適当なダイジェスト)
- 街に謎のペンギンが現れる
- 「ぼく」とウチダ君が研究を開始する
- ペンギンは「ペンギンエネルギー」で動くので食べ物は要らないことがわかる
- お姉さんはペンギンを作り出すが、他の生き物(コウモリ等)も出せる
- お姉さんはペンギンを出すと体調が悪くなることが分かる
- 「海」の存在が分かり、ハマモトさんが研究メンバーに加わる
- 「海」の大小の変化と、お姉さんの体調は連動していることが分かる
- ジャバウォックと呼ぶ謎の生き物が森に現れ、ペンギンを食べてしまう
- スズキ君がジャバウォックを見つけたことで、町に調査団がやってくる
- 「海」が暴走しはじめ、調査団員が5名行方不明になる
- 町民が全て避難する中、「ぼく」はお姉さんと再会する
- お姉さんの存在の謎を解き明かし、二人で暴走状態を解決する
- お姉さんとのお別れ
ネタバレなエンディング:お姉さんの存在とは
完全なネタバレでエンディングを言えば、以下の通り。
「お姉さんは極めて人間のようだが人間ではなく、世界を調節するためにどこかから生み出された存在」で、全ての怪奇現象はその調節のために行われていたということ。
「海」は世界にできたひずみであり、本来はあってはいけないもの。
その「海」のエネルギーを逆に利用して修理するのがペンギンであり、ペンギンを作り出せるお姉さんの使命。
恐らくは神様に類する存在が作り出したもの。
しかし人間として暮らすお姉さんは、意識してか無意識にか、「海」が消えることは、すなわち自分が消えることだと認識していた。
そのため、ジャバウォックと呼ばれるペンギンを食べる存在も生み出し、「海」が壊されないように、「海」が大きくなるように調節をしていた。
だが、調査団が飲み込まれ、「ぼく」に真実を告げられたときに、再びペンギンを率いて「海」に立ち向かい、最後は「海」を消滅させるとともに自分も消えていく。
「ぼく」は、お姉さんへの気持ちをいつものように言葉で記録することができなかった。
「ぼく」はもっとえらくなり、いつかお姉さんの謎を解いて再会することを誓った。
感想:不思議な話だったのう
ストレートに言えば「不思議な話だったのう」という感想です。
なぜ世界のひずみとなる海が生まれたのか?
なぜペンギンなのか?
なぜお姉さんは人間として、本人も人間と自覚して生まれたのか?
少しイマイチかなと思ったのは、「海」に恐怖や絶望感が無かったことです。
確かに不思議な存在ではありましたが、小学生が近くで観測しているレベルのものであって、「これが世界のひずみです」というのが違和感がありました。
ほっといても良かったんじゃないかなと。
でも最後のお姉さんと「ぼく」(アオヤマ君)の会話は好きです。
「アオヤマ君、私はなぜ生まれてきたのだろう?」
「わかりません」
「君は自分がなぜ生まれてきたか知っている?」
「ぼくはウチダ君と、ときどきそういう話をします。でもそれはぼくらにはむずかしい。そういうことを考えていると頭がつーんとするってウチダ君は言います」
「そうか、じゃあ、しょうがないね」
「でも自分がなぜ生まれてきたか、いつかわかるかもしれない」
「わかったら教えてくれる?」
「教えます」
生きている意味など考えないようにしていますが、
生きている意味が分かって、かつそれを話せる人がいるというのは
素晴らしいことなのだろうと思います。
映画化に対する期待と不安
不思議な世界観であるため、映像化は期待と不安があります。
このファンタジックな世界を、どのように映像表現していくのか?
「海」もイメージは文章しかありませんので、どのようなものなのか。
ジャバウォックは人の手足を持つようですが、どんな見た目なのか。
恐らく、公開後に観に行くとは思いますが、今の段階では期待と不安が半々です。
と思って、映画の公式HPをみたら、予告編でだいたい把握できました。
一応観に行くかなあ。
もうちょっと、お姉さんはクールというか涼しげなイメージでした。
文庫版の表紙のイメージに引っ張られているのかな。
予告編にもちょっと出てましたが、リアル空飛ぶペンギンを見てきた話もご覧ください。