『会社というモンスターが僕たちを不幸にしているのかもしれない。』 青野慶久 著
タイトルが長いですね。
サイボウズ株式会社の代表取締役、青野慶久氏の書いた本です。
何度かこのブログでも話題にしたことがありますが、
サイボウズは「働き方改革」を進めている会社としても有名ですね。
なお、本書では会社を「カイシャ」とカタカナ表記するので、本の論旨を紹介するときはそれに準じます。
<目次>
- 内容をざっくりまとめると
- 正論と言えば正論
- 「好きなことで生きていけない」という現実
- 「好きなこと」を敢えて持たない
- 楽しくてやりがいがある>>きついけどやりがいがある>>楽しくもないしやりがいもない
内容をざっくりまとめると
- カイシャというものは存在しない。結局は代表取締役(代取)という人間だ。カイシャを見る=代取という人間を見る。
- カイシャを売上や利益、規模で判断するのではなく、利益をどう配分するか、給料以外の報酬(人脈、福利厚生、楽しさ)で選ぼう。
- 代取(=カイシャ)のビジョンと、自分のやりたいことは一部でも合っているのか、常に自問自答すべき。
- 仕事は「やりたい」「やるべき」「やれる」が合致したときにモチベーションが最も高まる。
- 年功序列、横並びの給与体系、残業、副業禁止、役職定年、定年退職など古い体質が残る会社は、時代に取り残される。
- いくつものスキルを掛け合わせることで、単独ではどこにでもいる自分のスキルが、非常に価値ある人材として認められる。
- 多様性の尊重がイノベーションを生み、これからの時代も生き残っていける。
まあこんな感じでしょうか。
正論と言えば正論
著者自身がサイボウズを創業し、ブラック企業からある意味最先端の経営を行う会社へと成長させています。
概ね、言っていることには同意です。
ただ大企業批判がちと多いかなと感じました。
冒頭で、青野社長のTweetから引用されたこんな文章があります。
最近、日本の大企業でくすぶっている若者を見て思うことがある。
君たちはね、就活に失敗したんだわ。
時代についていけないサラリーマン社長が経営しているイケてない会社を選んじゃったんだわ。
そして、くすぶり続けてるってことは、君たちも変化できない奴だってことになる。
変わろう、動こう。
その他、本書の前半には大企業への批判が結構並んでいます。
売上=顧客から巻き上げていると言える、とか。流石に暴論だと思いましたけど。
確かに「大企業病」と呼ばれるような事象は多くあります。
縦割り組織、上司への忖度、体質が変わらない、出世レース…
こうした大企業のデメリットは確かにあります。
大企業のメリットは本書で言う「報酬」=給料、人脈、福利厚生等々、中小企業に劣るものでしょうか?
日本の会社の99%が中小企業で、働いている人の7割は中小企業に属しています。
中小企業(特に「小」の方)の代取は、概ね創業者またはその二代目以降が多いです。
私も銀行にいましたので、多くの中小企業の社長や社員と話をしてきました。
中小企業であっても、大企業病に近い症例はけっこうあるなあという感覚です。
もちろん大企業の方が割合は多いかもしれませんし、病気の進行も根深いかもしれません。
中小企業なら、数人の意識が変わるだけで治療できるかもしれません。
ただ、本書でも「結局は会社の規模ではなく、その会社の個々に見ないと意味がない」という結論です。
しかし、どうにも中小企業やベンチャーを持ち上げて、大企業は悪というような意図が(私には)感じられたため、少し違和感を覚えました。
「好きなことで生きていけない」という現実
最近は「好きなことで生きていく」というフレーズをよく見聞きします。
個人の生き方としては素晴らしいですし、良いことです。
しかし、メディア等で目にする人は、基本的に成功者ばかりです。
「好きなことでは生きていけない」人の方が多いのではないでしょうか。
「好きなこと」を敢えて持たない
私の場合は、「好きなこと」を強く意識しないことがベターな選択だと考えています。
「やりたくないことがそんなになければいい」というマイナスからの発想です。
「やりたい仕事」を強く意識するから、現実とのギャップが生じて苦しみます。
私の場合、大雑把な方向性はあっても「どうしてもこういうことがしたい!」がないので、目の前の仕事を淡々とやることができています。
「面白い仕事とも言えないけど、かといってすごく詰まらんと言うほどでもない。お金も貰えるから、とりあえずやってくかな」くらいが今の仕事への気持ちです。
これはこれで悪くはないかなあと。
楽しくてやりがいがある>>きついけどやりがいがある>>楽しくもないしやりがいもない
結局、ベスト、ベター、グッド、バッドのどれを選び、そのための労力を惜しまないかですよね。
楽しくてやりがいがある仕事で生きていければベスト。
きついけどやりがいがある、報酬(給料以外も含め)が良ければ、ベターかノーマル。
どっちも無ければバッド。
バッドの人は考え直した方がいいですが、ノーマル以上ならいいんじゃないでしょうかね。
ベストな仕事を目指す・探すのは、スキル、体力、運に加えて、なによりもリスクが伴います。
「スタートアップ企業」、「ベンチャー企業」というと時代を捉えているようですが、安定性・健全性という点では、玉石混交・ピンからキリまで存在します。
もし冒頭で否定されたような「大企業でくすぶっている」ような保守的な人にとっては、そのリスクはかなり高い壁でしょう。
本書の言う「やりたい」「やれる」「やるべき」が交わる赤い部分がベストだとしたら、
私程度の保守的な人が「リスクを大きく取らず、そこそこの仕事へに意欲」を得るには、この緑色の辺りを意識するのがいいかなと思います。
つまり「やりたい」「やれる」「やるべき」のうち、2つ満たされれば十分いい仕事だということです。
それには職場を選ぶ(転職、起業も含めて)ような決断も大事ですが、「自分の意識を変える」ことも大切でしょう。
視点を少し変えてみると、「意外と今の職場でも合ってるかも」と思えるかもしれません。
「動かなくても変わる」ことができるかも?
少し否定的な言い回しが多かったかもしれません。
しかし、概ね同意でき、既に変わり始めている時代を捉えた本でした。