「太陽・惑星」 上田岳弘
「太陽」という話と「惑星」という話の、それぞれ独立した2本立ての本でした。
ネタバレはないです。
「太陽・惑星」の概要
「太陽」について。
大学教授・春日晴臣、アイドル崩れの風俗嬢・高橋塔子、赤ちゃん工場を作ったドンゴ・ディオンム、その息子のトニー・セイジなど、様々な国、職業、背景、時代の人物たちが織り成す物語。
赤ちゃん工場の実態を探るべく国連の調査団が向かったパリで、登場人物たちの人生が絡み合う。
「惑星」は一方的に送られるメール文章が展開していく。
「最終結論」である精神科医の内上氏と、「最強人間」であるフレデリック・カーソン氏のやり取りを中心に、「最高製品」という人類が繋がって全てが賄える機械の誕生をめぐって、世界の行く末が語られる。
感想
「太陽」の後に「惑星」が掲載されているのですが、どこかでクロスするのかと思いきや、独立した話でした。
「太陽」では、冴えない大学教授のデリヘルを呼ぶ習慣の話から、まさに宇宙規模の話にまで発展します。
文章やシーンの導入が特徴的で、「太陽」では目まぐるしく舞台が転換していき、現在~過去~未来と時系列も入り乱れて展開していきます。
それはそれでスピード感を持って読むことができました。
SFのようで思想的な部分もありながら、現実的であって、一方で嗅覚が1万倍強い人間が出てきたりと、様々な側面がある作品で、一概に良い・悪いとは論じにくいと思いました。
気になったところ。
ところどころ、文章がいまいちというか素人っぽさが残るなあと感じた表現はありました。素人の私が言うのもあれですが、読んでみれば何となくわかるかと。
そのほか、全キャラクターが毎回フルネームで登場し、「惑星」ではフレデリック・カーソン氏とスタンリー・ワーカー氏など「氏」まで毎回ついてきます。
それが文章中でも「氏は~~」(彼は、みたいな言い回し)と書かれるので、誰の話か分かりにくい部分が結構ありました。
「惑星」は書簡形式(メールですが)の割に地の文はメールっぽくないなどかなり読みづらかったですし、設定にいまいち付いていけませんでした。
太陽も設定自体は突拍子もない部分もありますが、こちらの方が哲学的側面がわかりやすく存在していて、また話の落としどころが気になって、早く読みたくなるような話でした。
「太陽」には「グジャラート指数」(幸福と不幸の許容度的な数値)という数値がやたらと出てきますが、ネットで調べても出てこないのでオリジナル設定のようですね。
ただ、どちらも好みが分かれる作品かなと思います。
私も太陽と惑星で半々な評価でしたし、苦手な人はとことん苦手そう。
そういう本も嫌いじゃないんですけどね。
人類の行きつく先
↑ スケールの大きな見出しになってしまいましたが…
太陽も惑星も、技術が発達していった未来での人類の行きつく先といったことがテーマのようです。
ここでいう技術とは、例えば不老不死や遺伝子レベルでの人体改良、マトリックスのような仮想世界での理想郷の実現です。
そんな私が思う、そのような世界での「人類の行きつく先」ですが…
その前に私は死んで無機物になるので、どうでもいいですね。