『凍える牙』 乃南アサ
小説の場合はあまり「事前情報を入れずに読む派」の私ですが、
タイトルだけではどんな本か判断できませんでした。
どうやら映画化もされているみたいですね。
警察&動物ものという珍しい作品のように思います。
以下、ネタバレを含みます。
あ、あとファンの人は読まないでください。
あらすじ
冬のある日、 レストランで一人の客が突然発火・炎上し、ビルを巻き込んだ火災となった。
死亡した男の身元すらなかなか調べがつかず、なぜ発火したかもわからない。
「音道貴子(おとみちたかこ)」は、離婚したばかりの中堅警察官だが、
女であることで警察組織の中では軽く見られていた。
そんな差別的感情をもつ代表格であるベテラン刑事・滝沢とコンビで事件を探る。
一方、都内では「野犬の仕業か?会社員襲われて死亡」という事件が起きる。
果たして二つの事件に関連はあるのだろうか。
また、音道と滝沢のコンビは協力して事件を解決に導けるのだろうか。
テーマは1つで良かった
本書は、文庫で500ページ超とけっこう長いです。
その理由に、テーマが2つあることが考えられます。
1つがいわゆる推理・警察物ととしての事件解決。
もう1つ、警察という組織から、ひいては社会における女性蔑視の問題。
この作品は1996年に書かれたもののようですので、
当時の男女の尊卑の問題は、小学生だった私にはよくわかりません。
この作品には、主人公・音道のことを「女だから」と軽視する男性が多く出てきます。
それが多すぎて「男を叩きたいがために、わざと女性を叩いてる描写ばかり入れる」ように見えてしまいました。
そして以下の通り、解説を読むと本当にそうだったのかなと、より強く思いました。
解説が残念
解説は別の方ですが、ずいぶん思考が偏っており、私の嫌いなタイプのフェミニストでした。
(フェミニズム自体に反対しているわけではありません)
「日本を5流国家、男性は昔から腐っていて、今でもそうだ。そんな人間の屑ばかりなせいで日本は終わる(言い回しはほぼ原文ママ)」
そんなことが普通に書いてある解説は初めて見たように思います。
1999年にこの解説を書いたそうですが、時代を考慮しても流石にひどいですね。
部分部分は面白いんだけど
そんなわけで、何というか思考の偏りを感じてしまったためイマイチでした。
事件の中心にオオカミがいるというのは珍しいですし、
冒頭の人体発火は「これからどうなるのか?」という点で少しワクワクしました。
ただその発火事件もちょっと無理があるかなあと思いましたが…
批判的なことばかり書いたので、ついでにもう一つ。
事件の最後の舞台は、千葉県の「海浜幕張」で終わります。
が、何の恨みがあるのか、
「自然の息吹も感じられない。人間だってこんな場所は嫌なはず。だだっ広いばかりでクソ面白く名もない街(言い回しはほぼ原文ママ)」とこき下ろしています。
音道の独白というスタイルを取って述べられていますが、元々そんな自然万歳なキャラでもなく、「急にどうした?」と思いました。
千葉県民的には、やや嫌になる書きっぷりでしたね。
というわけで、作品そのものというより、感じ取った思想が合わないという、小説を読んで初めて感じた違和感でした。
あまり音楽も小説も、作者のパーソナリティには興味ないんですけどね。
一冊で判断するのは良くないかもしれませんが、積極的に手に取ることはなさそうです。