先日の続きになります。
今回は実際に行ってきた話です。
前回の話や、検察審査会って何?という方は、先にこちらの過去記事をご覧ください。
リラックスした状態でお読みください。
窓の外を体育座りで眺めていると、ベランダの窓をコツコツとつつく音に気が付いた。
ふと見ると、アンドロイド居住区からお箸型伝書鳩がやってきていて、私の家のベランダにつまんでいた一枚の枯れ葉を落としていった。
その枯れ葉を拾い上げ、すり鉢でスリスリとすり潰し、粉末にしたものを白い壁にフーッと吹きかけると、「検察☆審査会やるよ(ハート)」というラテン文字が現れた。
案内された時間・場所まで術を使って時空転移してみると、開催地である裁判所から2kmほど離れた地点、時間軸も開催直前のエリアに落とされてしまった。
仕方なく残りは歩いて行くことにした。
3つある太陽は目まぐるしく回っており、最低1つは空に浮かんでいるため、気温が高く、じめじめとした嫌な天気だった。
舗装された道をぺたぺたと進んでいくと、道は一本のトンネルに差し掛かった。
中は真っ暗闇だが、時折トンネル全体が虹色に2秒間発光するため、その時に前後を確認しながらゆっくり進んでいく。
暗闇と虹色の繰り返しに体力を奪われるうえ、長いトンネルの床のほとんどは、どうやら多くのタピオカでできているようで、ところどころが柔らかく、ぶにゅぶにゅとしていた。
途中で足元がキラリと光ったので「しらべる」と、メガネ型ホバージェットパックを手に入れた。
装着したところ浮遊することができ、歩きにくいトンネルも何のそのと一気に進んでいった。
トンネルの先に灯りが見え、出口に向かって更に加速していく。
出口を出た刹那、解放された視界は激しく瞬いた。
辺りの明るさに慣れると、そこは木々があふれ、豆腐が歩き回る世界だった。
道行く豆腐に裁判所への道を尋ねると、「たたたたたたたみぎたたたたた。たぬき」と言われたので、豆腐から見て右に進むことにした。
すると、木々と豆腐の隙間から、巨大な建物が鎮座していることに気が付いた。
あれが目指すべき裁判所のようだ。
裁判所はまるでサイゼリア池袋東口店のような立派ないでたちで、ネオンライトが怪しく「さいばんしょ」と輝いている。
私は足がすくんでしまった。
どう見てもサイゼリア池袋東口店だが、「さいばんしょ」と書かれている。
そして、私の目は建物の上層に禍々しい妖気が渦巻いているのを見過ごさない。
しかし、既に約束の「瞬間(とき)」は近づいている。
意を決して、けんけんぱの要領で進んでいき、トビラに手をかける。
「…よう……こそ。」
トビラを開けるとそこには、身長3mはあろうかという警備員が立ち尽くしていた。
ざっと100人はいるだろうか。
中には子どももいるようだが、子どもといえど私と同じくらいの背丈である。
ふいに私の脇を割り込むように駆け抜けた豆腐がいたが、警備員のビームライフルによって一瞬で揚げ豆腐になってしまった。
ビームは私のもみあげをかすめていったため、左もみあげを失った私は左右のバランスが崩れ、真っ直ぐ立っていられなくなった。
左側に少し傾きながらも進むと、先ほどの警備員が話しかけてきた。
「ここは裁判所です」
なので私はこう返した。
「知っています。知っていますとも。だから来たんです。そう、私呼ばれたんです。あなたじゃないよ、あなたの友達かもしれないけどね。その人がここにいるはずなんです。私に仕事を頼みたいって」
「ここは裁判所です」
警備員は繰り返した。
「こここここここここ、ここは裁判所です」
警備員は繰り返した。
じっくり観察してみても、どうやらビームは飛んでこないらしい。
許可はとったようなものだし、何より私は招待客である。
警戒しながらも112人の警備隊の隙間を縫うように、私はうねりうねりと進んでいく。
南瓜の馬車の形をしたエレベーターに乗ると、x+2y階まで一気に駆け上がった。
どうやら直通のエレベーターのようで、ボタンも何も押していないのに動いている。
あっという間に、パパパパンと到着音が鳴り響いたので、立っている場所から前転を2回、ころころと繰り出すことでエレベーターを出た。
エレベーターのドアが開くと、建物の中のはずなのに、太陽のような眩しさに包まれた。
目が慣れると、そこには緑の湖畔が広がっていた。
岸には青々とした草木が茂り、巨大な湖はコバルトパープルな鮮やかな色味を醸している。
水面では鯉が餌を求めてパクパクと口を向けてきているし、遠くにはネッシーの群れもパクパクしている。
湖の中ほどに浮かぶ島は、発泡スチロールで出来ているようだ。
瞬間、急に景色が暗転した。
あっと驚いたのも束の間、気がつくとそこは、小さな会議室のようだった。
実際には、自分の置かれた状況の理解には数秒かかったのだが。
周りをキョロキョロキョロキョロと見回すと、さまざまな縫いぐるみが各席に鎮座している。
犬、クマ、ふなっしー、ブタ、ふなっしー、ふなっしー、クマ、キティさん、犬、猫。
だいぶ種類に偏りがあるようだ。
テーブルはロの字型に組まれ、11人分の席が設けられていたが、一つだけ空席があった。
おそらくそこが私の席なのだろう。
座席にも「モチ太郎」というネームプレートが置かれている。
そして部屋の前方には、もう一人、人間がいた。
その人物は半笑いで着座しているにも関わらず、これまで私が出会った人間の中でも並外れた「圧」を放っていた。
脂ののった頬に、鋭い眼差し。
でっぷりと腹は出ているが、腕の鍛え方は生半可ではないことは見て分かる。
露出した下半身の前にはモザイクガラスが置かれているが、こちらの角度からは丸出しだし、その他にも一糸まとっていない姿である。
その男が荒々しい呼吸をするたびに、赤銅色の全身が弾むように上下している。
自分が裸であることに恥じらいどころか、違和感すら覚えていない凄み。
間違いない。こいつが裁判長だ…!
(続くかも)
あ、一応書いておくと、ほぼフィクションです。
内容は守秘義務がありますしね。
好評なら続きを書きますが、また「ほぼフィクション」にせざるを得ません。