「桜のような僕の恋人」 宇山圭佑
恋愛モノは食わず嫌いでしたが、書店でたまたま平積みしていたのを見つけて購入。
恥ずかしながら、おじさん泣きました。
以下、ネタバレもあるのでご承知おきください。
桜のような僕の恋人のあらすじ
カメラマンの夢をあきらめて悶々と暮らす朝倉晴人と、
自分の店を持つのが夢の美容師・有明美咲の悲恋話。
カット中に耳を切られたことがきっかけで、二人の距離は急接近する。
交際がスタートし、幸せな日々を過ごしていくが、美咲に重篤な病気が発覚。
徐々に病魔にむしばまれつつも、最期まで晴人に気づかれまいとする美咲だった。
最初から死亡フラグ
冒頭1ページ目から、明らかに美咲に不幸があったことが示され、
ハッピーエンドではないことが分かります。
といっても、最初は軽いノリで始まりました。
お互いの出会いや惹かれあうまでの経緯は、明るく、ともすればご都合主義的に進んでいきます。
しかし、ああこれ嫌な伏線だわ…というのがチラホラ。
発病と最期と
中盤、見事にフラグが成立し、美咲の病気が発覚します。
早老病やファストフォワード(早送り)症候群といわれ、名前の通り、急速に老化現象が進み、初期症状から1年ほどで老人となり、死を迎える不治の病。
(ファストフォワード症候群でググったけど出てきませんでしたが)
病気によって日に日に老化・衰弱していき、精神的にも荒れていく美咲。
それでも病気を恋人の晴人に隠し通し、一方的に別れを告げ、晴人の前から姿を消しました。
もちろん小説ですので、その後再会はしたのですが、望んだ再会とは言えないものでした。
それでも死の間際で、美咲も少しだけ救われたのが読んでいる側にも救いでした。
感想:王道だからこその感動
病気で急速に老いていく恐怖と、それを晴人に決して言えない美咲。
その事実を最期に知って悲しむ晴人。
展開としてベタと言えばベタですが、王道だからこその感動がありました。
FF10的に例えると、
ユ「シンを倒すけど、その時はうち死ぬわ」
テ「なんで皆、俺にそれ黙ってたんだよ!おかしいだろ!」的な話ですかね。
この小説のテーマはたぶん「思い出」だと思います。
晴人と美咲は、期間にして三か月程度の交際でした。
「交際期間3か月」というとかなり短いような気もしてしまいますが、
毎日のように会って想っていると、体感的にはけっこう長く感じますね。
その思い出が濃密なものだったから、二人は苦しんだ半面、最後に救われたのでしょう。
桜も一週間くらいで散ってしまいますが、大切な人と見た思い出は残りますしね。
そして毎年散ってしまうのですが。
女性の美意識について思うこと
ただ、それ以上に重く感じたのは、女性の美意識です。
美咲は24歳にして早老病にかかり、1年程度で髪は白髪になりました。
歯も抜け落ち、立つことも困難な老婆になり、そのことに苦悩し続けました。
特に死そのものよりも、老化による見た目の変化を恐れていた節があります。
ともすると、単に老人=醜いという評価をしているような。
20歳そこそこでは、そう思うことも当然仕方ないと思いますが。
個人的には(年齢相応なら)見た目が変化していくことは仕方ないし、
それはそれでいいじゃないかと思ってますが、やはり男女で全く意識が違うんだろうと再認識しました。
というわけで、口や態度に気を付けないと、女性を傷つけるということも、改めて学びました。
後日、アラフォー女性の知人も読んだとのことでしたので感想を聞きましたが、やはり老いとの闘いは熾烈だそうです。
「誕生日おめでとう」も、相手によっては、うかつに言うなとの貴重なアドバイスをいただきました。
まあ私も30歳を過ぎると、肉体的な衰えというよりは少し老け込んだかなあと思うこともあります。
初めて白髪(といってもまだ1本だけですが)が見つかったときは、少しばかりショックでした。
と、最後は茶化して書き終えましたが、感動的なお話です。
泣きたい方はどうぞ。
そして、夏休みの読書感想文の宿題に困っている方は、上の方を適当に改変しても構いません。先生にバレなければね。
とはいえ、泣いたからと言っていい作品だったとは限りませんけど。
誰か死ねばだいたい泣くけど、それが全てではありませんからね。